2013年4月。最強の脱臭器vs最強の臭いの対決がテレビで放映された。
最強の脱臭器はオーニットが製造する「剛腕」。対して最強の臭いは「くさや」。
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結果はくさやの勝利。オーニットの社員は愕然とする。特に開発者たちの落胆は大きかった。「もう絶対に負けたくない」悔しさと新製品への情熱が社内に立ち込めている最中、新入社員として堀が入社する。堀はオーニット初の化学専攻の開発者だ。
「社内には、絶対負けない脱臭器をつくるんだ、という空気がありました。自分も学生の頃から、日本一の製品をつくりたいという夢を持っていましたから、そこに関われると思うとわくわくしました」(堀)
2013年9月。商品戦略会議で様々な案があがる中、堀がこんなアイデアを出した。
「促進酸化法でオゾンよりも反応力の高いラジカルを生成できれば、より高い消臭効果が得られるんじゃないでしょうか」
促進酸化法とはオゾンと過酸化水素や紫外線などを併用して発生させた強力な酸化作用を持つラジカルにより有機物を分解させる方法。水処理場などで水を浄化する際に用いられる。化学に詳しい堀ならではのアブローチだ。
「その方向で探ってみよう」
開発は発案者の堀の手に委ねられた。ここから新入社員・堀の格闘がスタートする。
入社してわずか5カ月のとき新製品の基礎研究を任される。プロジェクトを成功に導けるなら新人もベテランも関係ない。それがオーニットの流儀だ。
子供の頃から化学が好きだった。「答えを導き出せた時のワクワク感が好きなんです。だから絶対答えを探してやる、と常に思っています」
まずはオゾンに何を組み合わせてラジカルを生成させるかを探していく。
安全な物質であること、消臭効果が高いこと、安定して生成できること。この条件をクリアする物質を探し出すのだ。
「他のプロジェクトも抱えていましたので、研究は遅々として進みませんでした。
様々な論文や文献を探しても水の浄化に関するものばかり。僕が探しているのは未踏の領域だったんです」(堀)
さらに実験の日々が続く。1種類の実験結果を得るためには最低でも3回分のデータが必要になる。非常に根気の要る作業だ。
「明るい材料が全く出てこない。けれど、それを続けなければ先はない。まさに暗中模索の状態でした。結局、20種類もの物質を試してみましたが、見つかりませんでした。」
それでも堀はコツコツと地道に作業を続けていく。気が付けば、2年の月日が経っていた。
2015年12月。社長から新しい課題が与えられる。
「ホテル業界に特化した剛腕をつくる」
ホテルなどの宿泊業では宿泊客の残したニオイを次の客が入室するまでに除去しなければならない。「ニオイがする」という理由で部屋のチェンジを要求する客も多く、
中には怒って他へ移ってしまうケースもある。ニオイの管理はホテル経営にとって非常に重大な課題なのだ。この課題に特化して挑むのが今回のプロジェクト。開発部は2チームに分かれてそれぞれのアイデアをプレゼンした。
堀のチームは堀自身が進めていた促進酸化法を用いた製品の提案をする。まだ答えにたどり着いていなかったが、このプロジェクトのために再度学び直す中で、新しいキーワードが見つかっていた。それが「光触媒」。
オゾンと光触媒+光でラジカルを生成する。これならいけるんじゃないかという希望があった。
プレゼンの結果、新プロジェクトは堀のチームに委ねられた。2年越しの研究はいよいよ第二段階に入る。
商品戦略会議は開発部だけでなく、営業、製造など全ての部署の代表者が参加する。全社一体となって製品づくりを行うという姿勢の表れだ。
先輩たち、技術顧問、大学時代の恩師、岡山技術センター。行き詰ったとき必ず誰かが知恵をかしてくれた。孤独な研究ではなかった。
まずターゲットとなるニオイを突き止めることにした。ホテルのユーザーアンケートから見えた答えはタバコと香水。この2つが最大の悩みだ。堀はこの2つの原料とニオイの素となる物質を徹底的に調査。結果、タバコのニオイの中で最後まで残る物質は酢酸、香水は芳香族化合物と判明する。つまり、酢酸と芳香族化合物を有機分解できればニオイを消すことができるのだ。
このターゲット特定までに半年。時間はかかったが実験の範囲が絞られたことで研究はスピードを増していく。あとは最適な光触媒を見つけるだけだ。
しかしそう簡単にはいかない。酢酸には効くが芳香族化合物には効かない。そんな一長一短の結果が続きなかなかゴールにたどりつかない。
新プロジェクト開始から1年が経とうとしたとき、「新しい光触媒が開発された」との情報が入る。堀に奇跡が巡ってきた。
通常光触媒の大きさは30nm~40nm。この新しい光触媒は約5nm。小さいためほとんど無色である。また、蛍光灯の光でも反応するので室内でも使用できる。
堀が求めていた条件をほぼクリアするものだ。しかも、全ての実験において最高の結果をはじきだした。
「世の中に実験資料が皆無だったため、すべて自分でやってみるしかありませんでした。そのため非常に時間がかかり、周囲をヤキモキさせてしまいました。でも、納得できるまで取り組ませてもらえたことで他では経験できない仕事ができた。ありがたいですね。」(堀)
一つの製品をつくるために、どれだけの知恵と信念と時間が必要か、堀は入社してわすが4年で体感した。
「大手企業なら検査する部署と評価する部署がわかれていて、それぞれが専門に担当します。僕は、ゼロからゴールまで全てを担当させてもらえた。だからこそモノづくりのやりがいを一層強く持てたと思います。」
特に嬉しかったのは、実際のホテルで効果検証したときのこと。喫煙ルームへの宿泊を余儀なくされた客が「全く匂わない。この部屋なら泊まれる」と喜んでくれたのだ。ホテル担当者の嬉しそうな姿を自身の目で見たことで、自分の研究が人の役に立つことを改めて実感できた。
堀の成長とともに誕生した「剛腕アシスト」。何年も実験を続け、文献を探し、検証し続けた若手開発者の想いの結晶は、新製品として全国で販売されていく。
「今後は消臭・脱臭効果だけでなく、他の分野でのオゾン活用についても掘り下げていきたいです。アイデアは沢山あるんです。積極的に提案もしていますよ。今のところOKは出ませんが(笑)。」
若い開発者はすでに次のオゾンの可能性を見つめている。日本一の製品をつくるという夢を抱きながら。
今回の研究開発は論文にまとめて発表。未踏の地に堀の足跡が残った。「今後、どこかの研究者・開発者の役に立ったら嬉しいですね。」
剛腕アシストはオゾン脱臭器の使用前に散布することで、オゾンの脱臭効果を飛躍的に高めるアシストスプレー。光触媒、光、オゾンによる促進酸化により強力な消臭効果を実現した。